SSブログ

「プランク・ゼロ/真空ダイヤグラム」科学文明の発展とその先にあるもの [SF小説]

タイトル:プランク・ゼロ/真空ダイヤグラム(ハヤカワ文庫SF・2002年、2003年)
原題:VACUUM DIAGRAMS(1997年)
スティーヴン・バクスター(Stephen Baxter)

あらすじ


西暦3000年代、ワームホールを開発し宇宙進出を果たした人類は、太陽系外への拡張をはじめる。そこで知ったのは、人類を遥かに超える驚異的な科学力を持った種族“ジーリー”の存在だった。
宇宙に存在する様々な種族は、ジーリーが各地に残した遺跡を手に入れようと奔走している。ジーリーのテクノロジーは、種族間の争いを圧倒的に有利にする財宝だからだ。
その後、人類は他種族に二度支配されるが、それを乗り越えついにはジーリーにつぐ種族へと成長していく。
数百万年にわたる人類の興亡を描いた壮大なクロニクル。
フィリップ・K・ディック賞受賞作品。

評価


★★★★★

感想


バクスターの小説には夢がある。どの物語もめまいがするくらいスケールの大きな世界を読者に提示してくれる。それでいて理解が難しいものではなく、物理学の興味深い思考実験的なものをバランスよく散りばめて、小説としてのおもしろさとハードSFの科学性を両立している。

『プランク・ゼロ』と『真空ダイヤグラム』(ちなみに原書では『VACUUM DIAGRAMS』として一冊での刊行)は、“ジーリー”という驚異の科学力を持つ種族が登場する“ジーリークロニクル”という世界観の中で展開する短編集で、AD3672年からAD五億年(!)頃までの人類の興亡を描いている。まあAD五億年というのは後日談的なものなので、実際に物語として進行していくのは、AD4,000,000年頃までである。四百万年後でも十分すぎるくらい先の話ではあるけれど(笑

ジーリークロニクルにはほかに長編が四つ(『天の筏』『時間的無限大』『フラックス』『虚空のリング』)あり、短編集の中のいくつかと物語が重なり合っている部分がある。
というわけで、先に短編集を読んでしまうと長編の軽いネタバレになってしまうので、できれば長編四冊→短編二冊、の流れが望ましいのだが、残念ながらこのジーリークロニクルは、ここで紹介している二冊の短編以外は現在絶版になっている。

とはいえ長編・短編ともにひとつの物語として完結しているし、読む順番が変わっても、先に読まなければよかったと激しく後悔するほどのものでもない。単に小説の発表年を追って読んでいくと流れがつかみやすいというだけで。
発表年は下記のようになっているので、もし手に入るならこの順番で読むのがいいんじゃないでしょうか。

・天の筏(1991年)
・時間的無限大(1992年)
・フラックス(1993年)
・虚空のリング(1994年)
・プランク・ゼロ/真空ダイヤグラム(1997年)

続編も数編出ているようだが、邦訳はされていない。個人的には人類の絶頂期と思われるAD十万年代の話が読みたいのでいつか書いてほしい。そのころの地球の状況とか政治形態の変化とか。

ちなみにこのブログのタイトル『スージードライヴァーズ』は、短編集『プランク・ゼロ』の中の「クォグマ・データ(AD5611年)」に登場する宇宙船の駆動装置(ドライヴ)を参考にした名称だ。
スージー(超対称)ドライヴは人類が開発した駆動装置で、物質を超対称転換によって電子からセレクトロン、そしてまた電子へと転換する。そのとき転換される電子は元いたのとは別の場所の電子で、それによって超光速での移動を可能にするというメカニズムだ。

それまでの人類は、登場人物のワイマンいわく「ジーリーの影に怯えて、想像力欠乏症」に陥っていたが、その人類がジーリーのテクノロジーに頼らず開発したのがこのスージードライヴで、それを搭載した宇宙船は、ジーリーの原理に基づく駆動装置が載った船よりも早く目的地に到着する。

おぉ~、人類やるじゃん、てことでこのタイトルに。人類の持つ決して諦めないという強い精神性と野心、それこそがこの物語において種族としての人類が生き残れた理由なのだと思う。
しかしながらジーリークロニクルの中では、人類の持つ強い精神性、その中でも最後まで消すことのできなかった攻撃性が、破滅への道を歩ませることにもなる。

どれほどの年月が流れても、人類はやはり愚かなままである。それでも人類はなんとか生き抜いていこうとする。たとえ破滅が目前に迫っていても、絶対に諦めることはせず状況を打開しようと試みる。そんな人間に対する作者のやさしい眼差しが、この物語を魅力あふれるものにしている。

スケールが大きくて、それでいて単なるファンタジーではない小説を読みたいと思っている方はぜひ。

追記(ネタバレあり)
「天の圧制(AD171257年)」での人類は、ハイパースペース(コンパクト化された次元のうちのひとつ)に身を潜め、途方もない時間と手間をかけてジーリーへの攻撃の機会を窺ってきたのに、結局やることは鈍重なスプライン船に乗っての通常攻撃ってのはどうなんだろう。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。