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もやもやが残る「トランセンデンス」AI否定と見せかけてじつは肯定? [SF映画]


タイトル:トランセンデンス
原題:Transcendence(2014年)
監督:ウォーリー・フィスター
出演:ジョニー・デップ、レベッカ・ホール、モーガン・フリーマンほか

あらすじ


世界有数のAI研究者であるウィル・キャスターは、ある日の講演後に突然銃撃を受ける。ウィルを撃った人物は反テクノロジーを標榜するテログループの一員で、彼らはほかのAI研究者たちも襲撃していた。
余命いくばくもないウィルを救おうと、同じく研究者である妻のエヴリンは、彼の意識をコンピューターにアップロードする。
アップロードされたウィルは、様々な情報を取り込み次々と新たな技術を開発していくのだが、人間を超えた知性を持つ彼に、エヴリンは次第に困惑するようになる。
そんな彼らの元に、テログループやFBIなど、ウィルの存在を脅威に感じる者たちが迫り来るのだった。

評価


★★☆☆☆

感想


※ネタバレを含むので未見の方は鑑賞後に見ていただければ。 もっともストーリー展開が重要な映画でもないので、そこまで興をそぐことにはならないと思いますが。

意識のアップロードといえば、ハードSF界のトップランナー、グレッグ・イーガンの得意分野だ(イーガンの場合は“ダウンロード”と表記されるが)。個人的にも好きなジャンルなので、このテーマを映像でどう表現するか、鑑賞前から期待は高かった。
しかし記事のタイトルにあるように、観終わったあとにもやもやが残った。
それはストーリーにカタルシスがないからといった理由などではなく、この映画に出てくる人物、特にテログループ、マックス、エヴリンの言動に違和感があったからだ。

映画の冒頭、RIFTと呼ばれる反テクノロジー主義のテロリストたちは、AI研究者たちを大量に、しかもむごいやり方で殺していく。主人公のウィルに対しては念を入れたのか、ポロニウム(放射性物質)を混ぜた銃弾で襲撃する(ウィルは放射線被曝で助からない状態に)。
この時点で、反テクノロジー主義者たちへの共感はまったくなくなる。

その後テロリストたちは、ウィル夫妻の友人で研究者でもあるマックスを拉致するのだが、そのときもマックスを暴行して監禁し、映画終盤でも意味もなくマックスに銃を突きつける。
彼らはとにかく自分たちの思想を実現するために、暴力を使ってものごとを遂行しようとするのだ。

この映画で覚えた違和感というのは、そんなテロリストたちの行動に、テクノロジーの暴走を止めるためにやむを得ないといった感じの、ある種の正義を与えているように見えるところだ。そもそも彼らの行動がこの事態の引き金になったともいえるのに。
そして映画のラストは、図らずもテロリストたちの望みが叶うことになる。ある意味、暴力による革命の成功だ。


次にマックスについて。
前述したように彼はウィル夫妻の友人で、自身も研究者である。しかし彼はテクノロジーのとめどない発展に対して脅威を感じていて、テロリストに拉致されたあと、彼らと行動を共にすることになる。いくらアップロードしたウィルの自我を止めるためとはいえ、友人・知人の研究者たちを無残に殺したテロリストに協力するなんてあり得るのかという疑問が。

もっとも彼の行動の源は、科学者としての責任ではなく、ウィルの妻のエヴリンへの秘めたる想いにあるように見える。ウィルの意識のアップロードに協力したのも、その後テロリストと行動を共にしてウィルを破壊しようとしたのも、すべてはエヴリンを助けようと思ってのことだと思えば腑に落ちる。

そんな愛に生きる男マックスであるが、終盤の一シーンで、彼の株はだだ下がることになる。
テロリストと軍は、ウィルとリンクした技術者のマーティンをネットが届かないところに誘い込んで銃撃する。
自分たちで撃っておきながら、その後なぜかマーティンを治療しようとするのだが、ネットが届く範囲に彼を連れて行けばナノロボットの力で救うことができるとわかっているにもかかわらず、マックス(と仲間の人間たち)は彼を見殺しにするのだ。

そのことをエヴリンに問い詰められたとき、その場にいたテロリストの女リーダーが、殺すことでウィルから解放してやったという意味で「人間性を戻した」と言うのだが、これは視聴者への問いかけを込めた台詞だろう。人を殺しまくって目的を達成しようとしているお前が言うんかい、とツッコんだ人も多いはず。


最後にウィルの妻のエヴリンについて。
彼女もまた研究者であり、ウィルの意識をアップロードすることを発案し、実行した人物である。彼女こそがすべての事態を引き起こした張本人なのだが、それにもかかわらず、当事者意識がいまいち感じられない

エヴリンはウィルの助けでテロリストたちから逃れ、荒野の町に研究施設を作り、ウィルの研究をサポートする。しかし夫の死の間際に燃え盛った、意識をアップロードしてでもウィルを救いたいという情熱が冷めてきたのか、次第にウィルと距離を取りたがり、恐れ、不信感を抱くようになる。
終盤にマックスに「世界を変えたかったのは君だ」と指摘されるが、いざ世界が変わっていくその中心に立ったとき、彼女は恐ろしくなったのかもしれない。こんなはずじゃなかった、と。

研究所が襲撃され、ウィルがエヴリンを守ると言ったときに、彼女は「彼らは怖くない」と言う。人間である彼らを恐れてはいないが、ウィルのことは恐れている、ということを暗に言っているのだ。
だがAI研究者やそこで働く技術者も残らず殺したテロリストたちが、一番に狙うのはどう考えてもエヴリンではないだろうか。人間の意識をアップロードすることに世界ではじめて成功した研究者なわけで、その知識や手順も知っている彼女は、反テクノロジーのテログループにとっては最も危惧する存在だろう。前述した当事者意識の低さというのはこのあたりからも感じられる。ウィルの陰に隠れているが、すべてはエヴリンが望み、エヴリンがやったことなのだ。


この記事のタイトルに「AI否定と見せかけてじつは肯定?」という文言があるが、なぜそう思ったかというと、ウィルを止めようとする人物たちが、総じて身勝手で思い込みが強く、共感することが難しいキャラクターだらけだからだ。

彼らはアップロードされた意識がウィルと同一であると信じず、ウィルの意識とリンクしたハイブリッド人間の存在を、ウィルが作り出した兵隊と断ずる。そしてリンクされた時点でオリジナルの人間の部分は残っていないと判断し、見殺しにもしている。ウィルの意思に従う者だけが生き残ると決めつけ、すべてわかったような口ぶりで話を進めていくが、ウィルがなにをしようとしているのか本当に理解していたのか極めて怪しい。彼らがウィルと直接コンタクトしたのは一度だけ、しかも施設を紹介された程度なのだ。

もちろんウィルの行動に問題がないわけではない。リンクした人間を操っているが、本人の同意を得たとは思えないからだ。
ただ彼は世界を支配しようとしていたわけではなく、エヴリンとの夢を果たそうとしていただけなのだ。医療技術を引き上げ、障がいを抱えた人を治し、ナノロボットで汚染した水や空気を浄化し、森を再生する。
仕掛けているのはつねに人間側であり、太陽光パネルをミサイルで破壊し、ウィルとリンクした人間たちを銃撃したりするが、それでもウィルは誰も殺さない。

マックスは、人間の感情は非論理的で矛盾に満ちているがマシンは折り合えない、と言う。しかしエヴリンの嘘を見抜き、ウィルスが体内にあることを知りながら、ともに死んでいく道を選んだウィルのアップロードされた意識は、人間そのものであるといえる。

人間は未知のものを恐れる、とウィルは言うが、これはこの映画のテーマのひとつだろう。
問題は、この映画に出てくる人間たちが、未知のものを知ろうともせず、ただ恐れ、それを排除しようと暴力的手段に訴える以外のことをしていないということである。人間の愚かさだけを突きつけられたような感じがして、ひょっとしてこれは逆説的に意識のアップロードやAIを肯定している映画なのだろうかと感じてしまうのだ。

アップロードされた意識が世界を征服しようと暴走し、人間がそれを食い止めるために奮闘する、という陳腐な設定では決してないのだが、結局展開としては同じようなものになってしまっている。
たしかに考えさせられるテーマや設定ではあるのだが、もう一歩踏み込んでくれたらなと感じる映画だった。

かなり酷評感の強い、そしてひねくれたレビューになってしまったが、映像はきれいだったし、退屈することなく最後まで楽しむこともできた。意識のアップロードという難しいテーマに挑戦したのもグッド。
でもやっぱり星2つかなあ。

「トランセンデンス」はAmazonプライム・ビデオで観られます。
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