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「未来医師」どうしたディック?と言いたくなる微妙なタイムトラベルもの [SF小説]

タイトル:未来医師(創元SF文庫・2010年)
原題:Dr.Futurity(1960年)
フィリップ・K・ディック(Philip K.Dick)

あらすじ


2012年、医師のパーソンズはある日の通勤途中、突然2405年にタイムスリップしてしまう。
そこはあらゆる人種の交配が進んだ管理社会で、人々の平均年齢はわずか15歳だった。出生は政府によってコントロールされ、死生観も変化し、そうした社会を持続させていくために医療行為が犯罪となっていた。

パーソンズは誰によって、また何の目的で未来に連れてこられたのか。隠されたピースを探し求め時間移動を繰り返し、パーソンズはその謎に迫っていく。

評価


★★☆☆☆

感想


SF小説に関してはこれまで高評価のものばかり紹介してきたが、今回は星2つ。
今までのは前評判が高かったり自分の好きな作家のものだったので、自然と評価も高くなりがちだったのだが、今回は本屋でたまたま手にとってあらすじを見ておもしろそうだなと思って買った本だったので、中身の予想がつかなかった。
予想がつかずにいいほうに転がる場合もあれば悪いほうに転がる場合もある。それが今回は後者だったということだ。

まず主人公のパーソンズの考え方や行動にいろいろと突っ込みどころが多い。
パーソンズはいきなり車が事故にあって未来社会に放り込まれたのに、わりとすぐに受け入れて、自分は医師だからこの技能があればなんとかなるだろう、とか、いずれは妻を連れてここに引っ越してくることもできるかもしれない、とか、いやいや待て待てと、懐が深い読者でも思わず突っ込んでしまいそうになる思考の持ち主なのである。

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現代SF小説の最高峰「ディアスポラ」ソフトウェア化した人類の旅路 [SF小説]

タイトル:ディアスポラ(ハヤカワ文庫SF・2005年)
原題:Diaspora(1997年)
グレッグ・イーガン(Greg Egan)

あらすじ


西暦2975年、人類は地上に住む肉体人と、ロボットの体を持つグレイズナー、そしてソフトウェアの世界に生きる人間の三つの形態に分かれていた。
ヤチマはソフトウェアの中で“孤児”として生まれ、ポリスと呼ばれる仮想現実都市で生活し、様々な知識を身につけていく。

あるときトカゲ座G-1の二つの中性子星が衝突し、地球に強烈なガンマ線が降り注ぐことがわかった。それは人類の持つ天文学の知識ではありえない現象だった。
ヤチマは肉体人にそれを知らせるべく友人のイノシロウとともにソフトウェアの世界から地上に降り立つ。そして宇宙で起こっている自分たちのあずかり知らぬ事象を探るため、広大な宇宙へと旅立つのだった。

評価


★★★★★

感想


前回の投稿から一年余、小説に関するものについてはじつに五年ぶりの投稿になる。
この間多くのSF小説を読んだにも関わらず、書くのが面倒でこのブログを放置してしまった。
やっぱり読んでから時間がたつと細かい内容を忘れちゃうから読後すぐに簡単な感想でもいいから書いておくべきだったんだよなあ。でもあらすじを書くのが億劫で……まあ書いたとこで誰が読むってわけでもないか……いやそういうことではなく……

と反省は置いておいて、今回取り上げる作品はグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」。イーガンは誰もが認める現代ハードSFのトップランナーで、個人的にも一、二を争うほどに好きな作家だ。

イーガンは現代科学に造詣が深く、荒唐無稽に思えるような舞台設定でもそこにはちゃんと科学的な裏づけ(あるいはそこから発展した推測に基づくもの)がある(まあハードSFとはそういうものではあるが)。それゆえイーガン=難解というふうにもとられがちである。
そんなイーガンの小説の中でも、最も取っつきにくいと思われているのが本書だ。その序盤の一節を引用してみよう。

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「プランク・ゼロ/真空ダイヤグラム」科学文明の発展とその先にあるもの [SF小説]

タイトル:プランク・ゼロ/真空ダイヤグラム(ハヤカワ文庫SF・2002年、2003年)
原題:VACUUM DIAGRAMS(1997年)
スティーヴン・バクスター(Stephen Baxter)

あらすじ


西暦3000年代、ワームホールを開発し宇宙進出を果たした人類は、太陽系外への拡張をはじめる。そこで知ったのは、人類を遥かに超える驚異的な科学力を持った種族“ジーリー”の存在だった。
宇宙に存在する様々な種族は、ジーリーが各地に残した遺跡を手に入れようと奔走している。ジーリーのテクノロジーは、種族間の争いを圧倒的に有利にする財宝だからだ。
その後、人類は他種族に二度支配されるが、それを乗り越えついにはジーリーにつぐ種族へと成長していく。
数百万年にわたる人類の興亡を描いた壮大なクロニクル。
フィリップ・K・ディック賞受賞作品。

評価


★★★★★

感想


バクスターの小説には夢がある。どの物語もめまいがするくらいスケールの大きな世界を読者に提示してくれる。それでいて理解が難しいものではなく、物理学の興味深い思考実験的なものをバランスよく散りばめて、小説としてのおもしろさとハードSFの科学性を両立している。

『プランク・ゼロ』と『真空ダイヤグラム』(ちなみに原書では『VACUUM DIAGRAMS』として一冊での刊行)は、“ジーリー”という驚異の科学力を持つ種族が登場する“ジーリークロニクル”という世界観の中で展開する短編集で、AD3672年からAD五億年(!)頃までの人類の興亡を描いている。まあAD五億年というのは後日談的なものなので、実際に物語として進行していくのは、AD4,000,000年頃までである。四百万年後でも十分すぎるくらい先の話ではあるけれど(笑

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SF小説初心者にオススメの「時間封鎖」地球の一年が宇宙の一億年に! [SF小説]

タイトル:時間封鎖(創元SF文庫・2008年)
原題:SPIN(2005年)
ロバート・チャールズ・ウィルスン(Robert Charles Wilson)

あらすじ


タイラーと双子の天才兄妹ジェイスン、ダイアンは近所に住む幼馴染だ。ある日、三人で夜空を眺めているとそこから突然星が消えた。地球は、のちに仮定体と名づけられるなに者かによって、まわりを膜で覆われ封鎖されたのだ。しかも地球で一年過ごすうちに、膜の外の宇宙では一億年もの歳月が過ぎていた。ということは、四、五十年後には太陽が赤色巨星となり地球を飲み込み人類は滅亡することになる。太陽はいつもと同じように地球を照らしていたが、もし地球の内と外でそれだけの時間差があるならば、地球はあっというまに焼き尽くされるはずである。しかし実際にはそうはならなかった。太陽は黒点もプロミネンスもないまがいものだったのだ。

人類は事態を打開するために、この時間差を利用して火星の植民地化を思いつく。火星をテラフォーミングして人類を送り込めば、地球で過ごすほんの少しの間に火星では何万年ものときが過ぎ、そこで発展した文明が地球の状況を打破するかもしれないという可能性に期待したのだ。
火星植民地化は成功するのか。そしてこの大がかりな“封鎖”をした仮定体の目的とはいったいなにか。
ヒューゴー賞受賞作品。

評価


★★★★☆

感想


すっと物語に入っていける読みやすさがあって、上下巻に分かれた長い物語ではあるものの、その長さをあまり感じさせない。
主人公と双子の兄妹の人間関係にかなり重点が置かれているのがその理由のひとつだと思う。また現在と過去の回想が交互に配置されていて、読み手を飽きさせない構成になっている。

この物語において読者が一番興味をひかれる点は、なんといっても地球で一年過ごすうちに、地球の外では一億年が過ぎ去っているという設定にある。
一億年! なんという長さ。こういった途方もなさすぎて笑えさえするような設定こそ、ある意味SFの真骨頂だ。

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遠未来SFの極地「都市と星」十数億年後の地球と人類の姿とは [SF小説]

タイトル:都市と星(ハヤカワ文庫SF)
原題:THE CITY AND THE STARS(1956年)
アーサー・C・クラーク(Sir Arthur Charles Clarke)

あらすじ


十数億年後の地球。砂漠に覆われた世界に、地球唯一の都市ダイアスパーが残された。ダイアスパーは人類の叡智を集めて建設された、驚異に満ちた都市である。人々は、ほぼ自動化されなんら不自由のない完璧な都市ダイアスパーでの豊かな暮らしを享受していた。しかし人々が唯一恐れること、それは都市の外に出ていくことだった。長く安定した環境を維持するために、人々には一種の強迫観念が植えつけられていたのだ。

不思議なことに、ダイアスパーに住む青年アルヴィンには外の世界への恐怖はなかった。それどころか強い憧れと好奇心を持っていた。アルヴィンは外の世界への出口を探すため、ダイアスパーの謎に踏み込んでいく。

なぜダイアスパーは作られたのか。そして、かつては宇宙を自由に飛び回っていた人類にいったいなにが起こったのか。

評価


★★★★★

感想


記念すべき第一回目は、昨年九十歳で大往生を遂げたSF界の巨匠アーサー・C・クラークだ。誰の作品にしようか迷ったけれど、やっぱこの人しかいないだろうってことで。
そんなクラークの作品の中でも一番好きなのが、今回紹介する『都市と星』だ。

十数億年後の地球と人類、そしてほとんど魔法の域にまで達した科学技術に支えられている都市。この設定だけでがつんとやられた。都市の描写だけでおなかいっぱい。
亜光速の宇宙船で移動した結果、時間の流れが異なる地球でとんでもない月日が過ぎ去った、という話ならあるかもしれないけど、地球上に生活する人々の時間の流れの中で、これほど遠い未来の話を描いた小説はほかにはないのではないだろうか(自分が知らないだけであるかもしれないけど)。
科学技術が進んだ未来、それもなるたけ遠い未来の話こそがSFの醍醐味だと思っている自分にとっては最高の物語だ。

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